技術資料

高速差動信号伝送におけるプリント配線板リファレンス面の影響

1. はじめに

PCI-ExpressやシリアルATAなど、1Gbps超級の高速差動シリアル信号伝送が汎用的に用いられるようになってきた。プリント配線板における差動信号用の伝送路は+/-を一対とする結合2線で、かつベタプレーンをリファレンス面とすることが多い。このリファレンス面は連続していることが信号伝送品質およびEMCの観点において理想的だが、実際にはボード動作に必要な電源種類の増加に伴い、ベタプレーンにスリットが生じ、これに差動配線が交差することがある。今回マイクロストリップ差動ペアラインにおけるリファレンス面のスリットが減衰量に及ぼす影響を予測する手法の確立を目的として、差動配線の結合度を変化させたプリント配線板を作成し、これらのTDR、TDT測定結果からスリットがある事による減衰量(Sdd21)を計算にて求め、実測値と比較した結果を報告する。

2. 実験

作成したプリント配線板の概略を図1に示す。差動配線は長さ300mm、誘電体厚み0.12mmの一般FR-4マイクロストリップである。この差動インピーダンス(Zdiff)を100Ωとして、コモンモードインピーダンス (Zcom)が25、30、40Ωとなるように線幅と間隙を調節した。マイクロストリップのリファレンス面は配線両端に配置したSMAコネクタのGNDリードと接続しており、リファレンス面にスリットのない基板を基準として、基板長手方向中央の第2層のみに5mm幅のスリットを設けた基板を作成した。電気特性の測定には、TDR、TDTとしてAgilent Technologies社 86100C+54754A +86112A、ネットワークアナライザーとして同社E5071Aを用いた。

結果と考察

3.1 TDR

スリットの有無に対するTDR 測定結果を図2に示す。

プローブ先端における立ち上がり時間が約 40psにおける測定では、Zcom =30Ωの基板の Zdiff は基板スリット横断部分において約6Ω増加する結果となった。図3はスリットありの基板におけるZcomの変化に対するTDR測定結果である。Zcomの増加に伴いスリット部におけるZdiffの増加量が低下することが確認できた。

図2 スリットの有無に対するTDR 測定結果

図2 スリットの有無に対するTDR 測定結果

図3 Zcom変化とTDR 測定結果

図3 Zcom変化とTDR 測定結果

 

3.2 スリット部の特性インピーダンス

Zdiffはオッドモード伝送時の特性インピーダンス、Zcomはイーブンモード伝送時のそれであり、それぞれ式1、式2にて表される。

式1、式2

voddはオッドモード伝送時の伝送速度、vevenはイーブンモード伝送時の伝送速度、C1は配線とベタプレーン間の静電容量、C12は配線間の静電容量である。スリットがない状態のZdiff、Zcom、voddおよびvevenはTDRおよびTDTより測定可能なので式1および式2よりC12を算出することができる。一方、スリット部の特性インピーダンスZdiff’は式3で表す事ができる。

 

(式3)

 

ここで図2のTDR波形の終端オープンの立ち上がりから、スリットの有無による伝搬速度の変化は微量と考えることができ、vodd’≒ vodd と近似することができる。また一般的な差動配線ではスリット部の配線とべたプレーン間の静電容量 C1’は C12 に比べてはるかに小さくなるのでC12+ C1’/2≒C12と近似することができる。よってZdiff’は Zdiff、Zcom、vodd、vevenの関数として式4で近似することができる様になる。

 

式4

 

3.3 スリット部の透過特性予測

今回の実験回路を図4としたとき、スリット部のABCD行列は式5と表せる。

 

図4 今回の実験回路のモデル

 

ここでβは伝送定数、dはスリット間隙である。βdZcom =25Ωは0に等しい微小数なので式5は式6に近似できる。

式6

 

また、図4より式7~式9 が導き出せる。

 

式7~式9

 

V2MAXはスリット無しの時の終端抵抗にかかる電圧である。式6~式9より I1、I2、V1 を消去すると、スリットによる減衰量の変化は式10の様になる。

 

式10

 

3.4 計算値と実測値の比較

Zdiff =100Ω、スリット幅5mmの基板におけるZcomの変化に対するスリット部の⊿Sdd21 計算結果を図6に示す。Zcomが小さいほど、大きく減衰しているのは、図2のTDR 測定結果の傾向と一致している。
また、スリットのない基板、スリットのある基板、スリットのない基板に式9にて算出したスリットの値を足して算出したSdd21を図6に示す。実測結果はZcomの増加に伴いスリット部でのインピーダンス不整合によるコネクタ実装部位とスリット間の長さに対応した周期的なSdd21の低下が見られるため、完全に計算結果と一致する訳ではないが、今回計算で求めたスリット部の⊿Sdd21と実測値がほぼ一致する。

図5 Zcom 変化に対する⊿Sdd21 計算結果

図5 Zcom 変化に対する⊿Sdd21 計算結果

図6 Sdd21 の実測値と計算値

 

図6 Sdd21 の実測値と計算値

4. 結論

マイクロストリップ差動配線のリファレンス面にスリットがあり、かつ差動配線が交差する場合はZcomが小さいほど⊿Sdd21はスリットのない場合に比べて減衰することがわかった。そして、スリットの無い基板の差動配線の特性インピーダンスと、オッド、イーブン各モードにおける伝搬速度から求めたスリット部における減衰量は実測値とよく一致していた。今後、スリットの長さを変えた基板で実験を行い、本予測手法の汎用性を検証する予定である。

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